国立がん研究センター東病院

病院のエントランスは吹き抜けになっていて 陽の光が優しく出迎えてくれた

入口付近にはドトールがあって コーヒ―を飲んでいる人の姿があった

イメージしていた病院とは違っていた

ここにいる人は がん患者か付き添いの家族の人達

そう思ったら親近感が湧いてきた

診察窓口では必ず 生年月日と名前を言う

診察がある人は 外来呼び出し器を持たされる

いわゆるポケベルだ

順番がくるととブザーが鳴る

ブザーが鳴った

乳腺外科の診察室に入った

４０代くらいの男の先生が座っていた

「前の病院から検査の説明を受けていますか？」

と聞かれた

「はい、トリプルネガティブだと言われました。」

「このタイプは遺伝性のことが多いのですが、周りに誰かがん患者の方はいませんか？」

乳がんの人は誰もいないはず？

父は前立腺がんになったけれど 亡くなった原因は別の病気

でも そう言われて考えてみたら 叔父も叔母も従兄もがんで亡くなっていた・・・

身内にがん患者がいたのに 他人事としてしか思っていなかった

「治療は抗がん剤と手術、放射線となりますが、まずがん細胞がどこまで広がっているか調べます。今日できる検査は今日やりますが、CTは予約が取れないので金曜日いかがですか？」

「大丈夫です」

先生は 机の上のパソコンの画面に向かって入力を始めた

「あの～」

質問をしようとしたら

「ちょっと待って」

遮られた

入力中は声をかけない方がよさそうだ

シーンとしている診察室の中で カチカチという音が不安を煽った

入力が終わってこちらを向いた

「手術はいつになりますか？」

聞いてみた

「先に抗がん剤治療を半年間行い、手術はそれからになります。もしも全身に広がっている場合は、手術をしても体に負担をかけるだけになるのでやりません。一週間後には検査結果が出ますので、来週乳腺内科の先生と相談して治療方針を決めましょう。」

頭の中に「もしも全身に広がっていたら」の言葉が張り付いた　

そこまで考えていなかった

「何かわからない事はありますか？」

頭がフリーズしてしまい 何も言葉が浮かんでこない

先生の診察が終わると 看護師が精神面をケアしてくれる看護外来がある

看護師さんが抗がん剤の副作用について説明をしてくれた

副作用で脱毛は免れないらしく ウイッグを用意しておくよう言われた

フリーズした頭の中で

「もしも全身に広がっていたら」「脱毛ウイッグ用意」

この二つのワードが繰り返される

診察が終わった後 血圧を測った

いつもは１１０くらいの血圧が１５０になっていた！！！　(◎_◎;)

その後 血液検査　レントゲン　心電図　マンモ　エコー・・・

いろいろ検査があったけれど どのように検査に行ったのかあまり覚えていない

頭の中には

「もしも全身に広がっていたら」「脱毛ウイッグ用意」

この二つの言葉が張り付いたままだった

頭が支えきれないほど重たかった

付き添いで来てくれていた夫の肩に寄りかかる

涙が頬を伝ってこぼれた

寄りかかる肩が有り難かった

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