同室の方々

病室の仕切りカーテンは ほぼ閉まりっぱなし

全員がカーテンを開けてお喋りする事はなかった

カーテンの向こう側では それぞれにドラマがあった

斜め前のベットの方

入院初日に リハビリ体操のビデオを一緒に見た綺麗な女性

彼女が手術に行く時と病室に戻ってきた時だけご挨拶した

どうやら私より2日早い退院のよう

彼女の退院の朝 洗面道具を持って廊下に出たら 彼女が歩いてきた

「おはようございます」

声をかけてきてくれて そこからお喋りが始まった

彼女も カーテンが閉まっていたので声をかけにくかったとの事

病室に戻り 私のベットの傍でおしゃべりを続けた

歳は私より10歳年下

短い時間だったが 前から知っているような不思議な感覚

連絡先を交換し お互いを励まし合った

もう一人の斜め前のベットの方

彼女が退院した翌日に ご年配の方が斜め前のベットにやってきた

シャキシャキっとしたお喋りの上手な方

この方は カーテンを開けている事が多かったので すぐに会話が始まった

リハビリ体操のビデオを見た時にお友達ができたらしく 毎日お友達が病室に尋ねて来ていた

私の退院の日が手術で 前日は不安そうにされていた

「アトラクションに乗るみたいですよ。ドキドキしますが気が付いたら終わっていますから」

と声をかけてみた

「でも、歳を取っているから麻酔から覚めなかったらどうしようと思うのよね」

明るく喋ってはいるが 不安そうだった

「大丈夫! 乳がんの手術は難しくないらしいですから、ちゃんと戻って来れます!」

ガッツポーズをして励ましてみた

「そうよね。ありがとう」

向かいのベットの方

私が入院した最初の数日は 治験のデーターを取るために先生や看護師さんが出入りを繰り返していた

カーテンは ほぼ閉まった状態で ベットから動く事はあまりなかったが

四日目ぐらいから動きだし 五日目ぐらいにはお菓子を食べている音が聞こえてきた

『よかった!元気になってきたのね』と思ってはいたが なかな話をするきっかけがなかった

話をするようになったのは『ヨーグルトに変えてください』事件の時 (前回のブログにて)

私と看護師さんとの会話に 横やりを入れてしまったと思ったらしく

「横からごめんなさいね」

それから少しお喋りをした

「私はね、もう何度も入退院を繰り返しているのよ」

品の良い感じのご婦人で 私よりちょっと年上のがんサバイバー先輩

時々お嬢さんが身の周りの物を持って来ていた

退院が同じ日となり ロビーでご挨拶をして別れた

隣のベットの方

たぶんこの病室の中で一番深刻な感じ

家族の方が毎日1人ずつ何回も出入りしていた

カーテン越しに聞こえてくる主治医との会話や家族との会話 

聞いてはいけないと思っても聞こえてくる

『私ここにいますけど』というふうにガザゴソしてみる

ヘッドフォンをしてテレビを見てみる

シーンとしていると聞き耳たてているように思われちゃうかなと思い 息子からもらったクッキーをボリボリ食べてみる

でも ヘッドフォンをしながら食べると 食べている音が頭の中まで響いてきて テレビの音が何も聞こえない

仕方ないので 病室を出て散歩をする

最初の頃は 食事も少しだが食べていたようだった

ベットから起き上がっている事もあった

見舞いに来た家族との楽しそうな会話も聞こえた

次第に言葉に障害が出てきて 喋りにくい感じになってきた

食事もほとんど食べなくなってきた

でも家族が差し入れを持ってくると 喜んで食べていた

家族の方が帰ると カーテンの向こうですすり泣く声が聞こえた

家族の前では明るく振る舞っているけど 辛いんだよね

気持ちが痛いほどわかり 私まで胸が詰まってきた

でも カーテンをいきなり開けて励ます訳にもいかず

彼女の為に祈った

何度か声をかけるタイミングを見計らっていたが かける事ができないまま退院の朝となった

せめて励ましの言葉だけでも置いておこうと メモ用紙に書いた

朝食が終わり薬の時間

食事はまったく食べていない

看護師さんが薬を飲みましょうと声をかけるが反応しない

看護師さんはまた後できますねと一旦引き上げた

しばらくして先生がやってきた

声をかけると返事はするけれど 薬を飲もうとしない

看護師さんが引き継いで彼女にいろいろと話しかけた

でも薬は飲まない

私は思い切って ベットを仕切っていたカーテンを開けた

そして看護師さんにメモを渡した

看護師さんは彼女に渡してくれた

私はメモに書いた事を言葉にして言った

「最後まであきらめないで! 辛いかもしれないけど貴方を愛している人達の為にもう少し頑張って!」

彼女は驚いた表情で私を見つめた

目には涙が溢れていた

「薬を飲もう」

泣きながらうなずいてくれた

看護師さんが薬を飲ませた

退院の前に 彼女のベットサイドまで行き 話をした

歳は私より若い50歳

まだまだやりたい事あるはず

諦めるには早いよ~ (>_<)

彼女の手に 友達からもらったラベンダーオイル入りのクリームを塗ってあげた

「いい匂い ありがとう」

そう言って目をウルウルさせながら私を見つめた

小さな折り鶴を机に置きベットサイドから離れた

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50代♀ 夫1人、子ども4人、猫1匹 大学卒業後、子どもや音楽に関わる仕事をしてきた 子育てもゴールが見えてきた矢先 胸にシコリを発見! トリプルネガティブ乳癌 ステージ3 何とも嫌な響きのこの病気 ポジティブに変換すべき奮闘中!!!

4 Thoughts on “カーテンの向こう側”

  • 今回の話は何度も読んでしまいました。自分の事だけでいっぱいになってしまいがちなのに、他のかたの事も気遣われていてすごいです。きっとどんなときでも真摯に前向きに進んでいらしたんだろうと思いました。その姿に励まされてきた人も多いはず。私も励まされました。

  • 目の前に起こる出来事は全て自分へのメッセージだと思っています。だからこの入院生活でどんな方々と出逢い、どんなメッセージを神様から頂くのだろうと思っていました。1週間の入院生活で、同じがんという病気に立ち向かっている方々の人生を垣間見せて頂き多くの事を学ばせてもらいました。お隣のベットの方に伝えたかった言葉は、全て私自身への言葉でもあったかもしれません。他人事ではなく、彼女と自分が重なって思えました。いつかは私も彼女と同じように思ってしまう日がくるのかなと・・・ だからこそ、どうしても励ましの言葉をかけたかったのかもしれません。同じ病気だからこそわかってあげられる気持ちがあります。看護師さんではなく、医者ではなく、家族でもなく、それは同じ病気を抱える者同士しかわからない気持ち・・・ そのために病気になったのかなと思っています。なら、それを役に立たせないと! そんな使命感を持って声をかけてしまいました。

  • 『がんばって』という言葉が、励ましにならない時がありますね。 がんばってる人に「がんばって」と言うのは『酷』になってしまうことがあったり。そんな時『当事者』にしか言えない「がんばって」は、心に響きますね。私は自身の体験から「がんばって」の代わりに「がんばってるね」とお伝えすることにしていま♫

  • 確かに『がんばって』という声かけは時には重荷になってしまう事もあるかもしれません。彼女に声をかける時もその事が頭に過ぎりました。でも、彼女は『もういい』とどっかで生きる事を諦めてしまっていたのです。詳しい病状はわかりませんが、病院側も家族も退院して家に帰るための準備をしていました。彼女自身も帰りたがっていました。なのに、薬を飲む事も食べる事も拒否していたのです。治療に疲れてしまったのかもしれません。副作用が辛かったのかもしれません。でも。まだ生きられる時間が残っているのだとしたら、自分から手放すのはダメ!と強く思ってしまったのです。彼女の姿はもしかすると私のこの先の姿かもしれません。他人事ではなかったのです。なのであえて『もう少し』という言葉を加えました。そして『いつか終わりの時は来るけれどそれは今じゃない! 私も自分の命を諦めないで最後まで生きるから貴方も生き抜いて』と手を握って言いました。

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